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信用力の評価のみを理由とした運営要領の改正には反対 | 押方移転価格会計事務所

子会社貸付金 利率

公式発表はありませんがグループ企業間ローンの金利設定について、今後、何らかの改正があるかもしれません。

昨年OECDが、銀行からの提案(Bank opinion)は、

☑実際の取引ではない
☑必要なデューデリジェンスと承認プロセスを経ていない

として比較可能性を否定したからです。

「銀行は企業の意のままに適当な提案書を出すに違いない」と決めつけるかのような意見ですが、こういうものが出た以上は、日本のルールが変わる可能性は十分あると思います。

グループローンに関する現在のルール

現在の移転価格事務運営要領3-8では

1.借り手が銀行等から借りた場合の金利
2.貸し手が銀行等から借りた場合の金利
3.国債等で運用した場合の金利

の順でグループローンの金利水準を決定すべしとされています。

今回のOECDの見解は、上記の2と3に再考を迫るものといえます。

「親会社(貸し手)と海外子会社(借り手)では信用力が違うのにそれを無視するのはおかしい」
「海外子会社と国家では信用力がまるで違う」


という意見は確かにその通りです。

金融機関が相手の信用力を評価せずに融資することなどあり得ませんし、信用力に応じて金利水準が変わることは周知の事実です。

我々は金融機関ではない

ですがそもそもの話として、この運営要領は親会社も子会社も「業として金銭の貸付または出資を行っていない場合」に適用される通達です。

言うまでもなく一般事業会社が行うグループ企業向けの融資は、利息収入が狙いである銀行融資とは目的が全く異なります。

金融機関ではない事業会社間のグループ内ローンの比較対象取引として、金融機関の融資利率をもってきていること自体に無理と言うか割り切りがあるように思います。

実際、「ウチは銀行じゃないんだけどな~」と思っている企業は多いはずです。

銀行とは融資を行う理由が違う

例えば自社の製品を大いに売ってくれている第三者の販売代理店が中国にあるとします。その代理店が何らかの理由で経営危機に陥り、1億円の融資を願い出てきたとします。

財務内容が悪く銀行からは借りることができない、あるいは非常に高金利になってしまう状況です。

しかし企業としては、その代理店が倒産することにより中国ビジネスが大打撃を受けるのであれば、融資を行う理由は十分あります。

簡単な借用証書を作って、名目的に金利は1%にしてすぐに送金しても不思議はありません。

独立代理店なのですから、その場合の1%は独立企業間価格です。同じような状況であれば、子会社に貸したとしても独立企業間価格は1%であるべきです。

それにもかかわらず、「銀行が中国子会社の信用力を評価した際の金利は10%なので10%で貸しなさい」としているのが現在の事務運営要領です。

財務内容は考慮要素のひとつに過ぎない

これは極端な例かもしれませんが、一般企業同士が行う融資というものは、借り手の信用格付け以上に融資の目的(=ビジネス上の必要性)が重要です。

自己資本比率などの財務状況、つまりはデフォルト(債務不履行)になる確率を無視はしないとしても、銀行が融資査定を行う場合ほどには重視されません。

棚卸資産取引や無形資産取引における比較対象取引の選定の際には業種や事業内容の類似性を検討しなければならないのに、なぜ金融取引の場合は、一般事業者間の融資利率と金融機関が実行する融資利率を比較するのでしょうか。

信用力の評価うんぬんの前に、最初から比較可能性に疑問符がつく話です。

もし「金融機関が適用する融資利率をもって、金融機関以外のグループローンにおける独立企業間価格とみなす」という法律ができたとしても、その法律は誰かが最高裁まで争えば財産権の不当な侵害として違憲無効になるのではないでしょうか。

信用力の評価を求めるなら金利相場の公示を

当事務所では顧問先企業に対して金利情報データベースを購入せずに独立企業間価格金利を算定する方法をお伝えしていますが、それなりの知見が必要ですので、すべての企業が採用できることではありません。

ですので仮に借り手の信用格付けを正確に行った上で、それに応じた金利にしなければならないと改正するのであれば、アメリカのようにセーフハーバー金利の公示が必要だと思います。

国が毎月、通貨、貸付期間、信用格付けに応じた金利水準を開示した上で、「信用格付け事例」のようなものも公表すれば、一般事業会社も何とか対応できるでしょう。

間違っても多くの企業が金利情報の購入を強制されるような改正は避けるべきです。

「実務に配慮して割り切った」でいいのでは

確かに現在の事務運営要領には突っ込みどころがありますが、何らかの寄る辺がないと実務が回らないので、もろもろ割り切っていると考えればいいのではないでしょうか。

通達(事務運営要領)は、実務をスムーズに回すことに重きが置かれている分、必ずしも理論的ではないからです。

改正するのであれば信用力の評価ばかりに焦点をあてるのではなく、融資を行った背景等を考慮するという内容にすべきでしょう。OECDも、取引の正確な描写が重要と言っています。

しかしそうなると、「融資を行う理由、借り手の信用力、通貨、貸付期間等を総合的に勘案する」という現在よりあいまいな文言になりそうなので、あえて改正しなくでいいのではと思います。

もっと本音を言えば、手間が増えそうなので改正して欲しくないです。私は学者ではありませんので、簡素な実務を望みます。

関連記事:「銀行からの見積書は親子ローン利率設定時のエビデンス」

<この記事を書いた人>
押方移転価格会計事務所 押方新一(公認会計士・税理士)

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